脳・心センター 岩手医科大学附属病院

岩手医科大学附属病院 脳卒中・心臓病等総合支援センター

脳卒中・心臓病について

脳卒中について

脳卒中(脳血管疾患:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等)とは

脳卒中とは、脳を流れる血管に問題が生じることが原因で脳の機能に障害がでる病気の事です。
一命をとりとめたとしても後遺症が残ることが多く、日本で介護が必要になる人のうち約2割が該当するとされています。そして、残念ながら、岩手県は脳卒中死亡率の都道府県別ワースト上位の常連県です。
脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3種類に分けられます。
脳梗塞は脳を流れる血管が詰まることにより、その血管が担当している部分の脳が壊れてしまうことで症状がでる病気です。
脳出血は、同じく脳を流れる細い血管が切れて出血することで、脳の中に血のかたまりができて、その塊のために脳が壊れてしまう事で症状がでます。
くも膜下出血は、脳の血管が枝分かれするところにできる瘤が破裂することで、脳の表面にある膜と脳の間に血の塊が広がり、それにより脳が侵される病気です。
日本では、脳卒中全体のうち、脳梗塞が約7割、脳出血が約2割、残る5%がくも膜下出血です。

脳卒中が起こる原因

脳卒中の種類により原因は異なります。

脳梗塞

脳梗塞の原因として、まず挙げられるのが、心臓の中に血栓が生じて、それが突然脳血管へ流れていく、心原性脳塞栓症です。太い血管が突然詰まってしまう事が多く、最も症状が重くなるタイプです。
脳の血管がそもそもの原因ではありません。心房細動という不整脈が原因のものが多く、この心房細動に対して治療を受けることが予防につながります。次に症状が重くなりやすいのが、脳血管の太い血管が動脈硬化により狭くなったり、閉塞したりすることで起こる、アテローム血栓性脳梗塞です。症状が落ち着いてから、再発予防のために、血管を広げる手術を行う場合もあります。
同じように動脈硬化や高血圧により、細い血管が閉塞するタイプをラクナ梗塞と言います。最初は症状が軽くとも、その後に症状が進んでしまう事があります。細い血管の閉塞なので脳梗塞は小さいのですが、血管が細いために手術で血管を広げたりすることができません。

このようにいくつかのタイプがありますが、いずれも原因のおおもとをたどっていくと、高血圧、高コレステロール、たばこ、糖尿病などに行きつきます。
他にも、血管が裂ける病気や足の静脈血栓が原因になるタイプがありますが、入院して詳しい検査をしないと原因不明になることもありますので、専門の医療機関できちんと原因の検査をうけることが再発予防につながります。

脳出血

脳出血の場合、最も多いのは高血圧が原因で起こるタイプです。高血圧のために脳の深い部分にある細い血管が傷んで脆くなってしまい、ある日突然破れてしまいます。この出血により脳がたちまち壊れてしまいます。高血圧以外にも、脳動静脈奇形やもやもや病などの脳血管の病気が原因になることがあります。脳出血の場合は、お酒をたくさん飲むことも原因の一つに挙げられます。

くも膜下出血

くも膜下出血を引きおこす脳動脈瘤ができる原因は、遺伝的な要因と考えられていますが、血圧が高い方や喫煙する方は破裂しやすくなりますので、くも膜下出血の原因がすべて遺伝のためとは言い切れません。

どのような症状が出るか?

ある日突然症状がでることが特徴です。
まず脳梗塞でよくみられる症状ですが、どちらか片側の手足に力が入らなくなったり、どちらかの手足がしびれたり、言葉がうまく話せなくなったりします。両手や両足に症状がでることは稀ですし、左手と右足といった症状の出方もまず考えにくいと思います。他にも、視野の片側が見えなくなったり、ものがダブって見えたりする症状が伴うこともあります。
お年を取っている方だと、ご家族からみて、ある日突然認知症になったようだ、という場合も脳卒中が原因の事があります。
脳出血の場合も、脳のある部分が壊れることで症状が出ますので、基本的に脳梗塞と同じです。ふたつの違いは、脳梗塞の場合、頭痛は伴わないことが多いのですが、脳出血の場合は頭痛を伴うことがしばしばあります。
一方、くも膜下出血の場合は、ここまでに挙げたような手足の症状が出ることもありますが、特徴は突然の激しい頭痛です。あの瞬間、何時、何分と分かるように突然で、頭を殴られたような、これまで経験したことが無いような痛みと言われます。

脳梗塞や脳出血は、脳の『ある部分』が壊れる病気ですから、脳全体の症状、例えば意織がなくなるといった症状は非常に重症の場合のみです。

症状についてよくあるご質問

Q.突然気を失って倒れ、すぐに戻りましたが大丈夫なの?

よくご相談をいただく症状で、突然気を失って倒れたが、すぐに元に戻るという事がありますが、激しい頭痛がなければ脳以外の病気である可能性が高いです。

Q.脳卒中の前触れはあるの?

ある日突然症状がでることが特徴です。
まず脳梗塞でよくみられる症状ですが、どちらか片側の手足に力が入らなくなったり、どちらかの手足がしびれたり、言葉がうまく話せなくなったりします。両手や両足に症状がでることは稀ですし、左手と右足といった症状の出方もまず考えにくいと思います。他にも、視野の片側が見えなくなったり、ものがダブって見えたりする症状が伴うこともあります。 お年を取っている方だと、ご家族からみて、ある日突然認知症になったようだ、という場合も脳卒中が原因の事があります。
脳出血の場合も、脳のある部分が壊れることで症状が出ますので、基本的に脳梗塞と同じです。ふたつの違いは、脳梗塞の場合、頭痛は伴わないことが多いのですが、脳出血の場合は頭痛を伴うことがしばしばあります。
一方、くも膜下出血の場合は、ここまでに挙げたような手足の症状が出ることもありますが、特徴は突然の激しい頭痛です。あの瞬間、何時、何分と分かるように突然で、頭を殴られたような、これまで経験したことが無いような痛みと言われます。

脳梗塞や脳出血は、脳の『ある部分』が壊れる病気ですから、脳全体の症状、例えば意織がなくなるといった症状は非常に重症の場合のみです。

症状が出た場合はどうすれば良いのか?

症状が出た場合は、脳神経内科や脳神経外科がある医療機関をできるだけ早く受診することが大切です。
もちろん、近くにこのような専門病院がない場合は、地域の中心となる医療機関を受診しましょう。
加えて、救急車を呼ぶことを躊躇しない事も大事です。後からお話しますように、できるだけ早く治療を受けることで、後遺症を最低限にすることができます。片側の手足や言葉の症状が、1時間以内に治ってしまうこともあります。この場合は、たとえ治ったとしても、次の発作でも元に戻る保証はありません。その日のうちに脳神経内科や脳神経外科を受診しましょう。

海外では、症状が出た際の見極めと迅速な救急への連絡を思い出してもらう為、下記の頭文字をとって「FAST」というキャンペーンをやっています。

  • ・FACE:顔の歪み
  • ・ARM:片側の腕の脱力
  • ・SPEECH:言葉がうまく話せない
  • ・TIME:症状が出た時刻をメモしてすぐに119番

速いという英語と同じになるので、英語圏にとっては非常によい標語なのですが、なかなか日本語ではうまくいきません。『「顔」「腕」「言葉」がおかしいときは、「時刻」を確認してすぐ救急車』と覚えましょう。

どのような治療を行うのか?

脳梗塞の治療

最近最も治療が進んでいるのが脳梗塞です。症状が出てから4時間半以内であればt-PAという血栓を溶かす注射薬が使えます。
①血管に血栓が詰まる(脳梗塞)②t-PAを静脈投与
③血栓が溶け血流が再開
※イラストはイメージです
加えて、最近とくに注目されているのはカテーテルを使って脳の血管につまっている血栓をとってくる治療です。

・脳梗塞のカテーテル手術

  • 太ももの太い血管から「マイクロカテーテル」と呼ばれる医療用のやわらかい管を挿入します。
  • 血管内に造影剤を注入し、血管の様子を観察しがらガイドワイヤーを用いてカテーテルを進めます。
  • 血管閉塞部にカテーテルが到達したら、絡めとったり、吸引するなどして血栓を取り除きます。

いずれの治療にも副作用や合併症はありますが、その効果はかなり高く、世界中で多くの患者さんがこの恩恵を受けています。重要な事は、これらの治療は時間が経つほどその効果が減ってしまうので、できるだけ早くこれらの治療を受ける必要があるということです。

脳出血の治療

脳出血の場合は、血圧を下げたり、血の塊が大きい場合は手術を行ったりすることもありますが、現時点で一旦出た症状をたちまち回復させるような効果の大きい治療法はありません。

くも膜下出血の治療

くも膜下出血の場合は、手術により瘤が再破裂するのを予防し、そのあと厳重に脳の状態を管理する治療が行われます。手術療法もカテーテル手術を中心に進歩していますが、1/3の方が死亡され、1/3の方が後遺症を残す重い脳卒中であることには変わりありません。

・くも膜下出血に対するカテーテル手術

前述のマイクロカテーテルを出血箇所に到達させ、コイル(プラチナ製の極細の糸)を詰めて止血します。

これらの治療だけではなく、脳卒中専門の病床で、お医者さんだけではなく、多くの専門職の方が参加したチーム医療を受けることで、合併症を予防し、早期よりリハビリを受けることも非常に大事です。国内では、脳卒中ケアユニット、SCUという専門病床の整備が行われています。

予防するのに重要なこと

高血圧、糖尿病、高コレステロール等の生活習慣病をきちんと治療することが大事です。

脳梗塞は血液がどろどろになることが原因、といったイメージが強いのですが、血液よりも血管の病気ととらえることが大事です。本屋さんに置いてあるいろいろな本を読んで血液をサラサラにする事に熱心になるよりも、高血圧、糖尿病、高コレステロール等の生活習慣病をきちんと治療することが大事です。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のいずれにも共通で、かつその影響が最も大きい生活習慣病は高血圧です。
どのぐらいの血圧になったら治療を受けたほうが良いのか、その目安は専門家の間でもいろいろと議論があるところですが、収縮期血圧(いわゆる上の血圧)が140以上、拡張期血圧(下の血圧)90以上が、1つの治療を考える目安になると思います。
一旦できてしまった動脈硬化を、飲み薬等でもとに戻すことはほぼ不可能と言って良いと思います。最近は脳ドックや健診で脳の血管や頸動脈の動脈硬化と診断されて、医療機関を受診される方が多くおられますが、全く症状がない場合に、脳に関係する動脈硬化に対して手術をすることは、それほど多くはありません。頸動脈という首の血管の狭窄が非常に強い方の場合は手術をお勧めすることがありますが、それ以外の大部分の方は、生活習慣病の治療ができているかどうか見直しをして、これ以上動脈硬化を進行させないようにすること、脳梗塞を発症しない事、を目標にします。

予防のポイント

1

塩分を減らす

お薬を内服することも大事ですが、塩分を減らすことも極めて大事です。岩手県も含めた東北地方は塩分摂取量が多く、東北地方の脳卒中死亡率が高いことに影響しているのかもしれません。漬物のような塩分の多い食べ物を減らす、最初から味がついているおかずに醤油やソースをかけない、お味噌汁の具を多くして汁を減らす、胡椒や酢を活用するなど、工夫をしてみましょう。

2

運動をする・適切な体重を維持する

運動をしたり、体重を減らしたりすることも血圧を下げるのには効果的です。この二つは、糖尿病や高コレステロールの治療をする上でも大事です。

3

禁煙をする

タバコは体に悪いことはわかっているがやめられない方が多いと思います。少しずつタバコの本数を減らしても、なかなか禁煙は成功しません。ご自分でご家族と良くお話し、禁煙開始の日を決めて、灰皿やライターを処分してしまってはいかがでしょうか?これでもうまくいかない場合は、禁煙補助薬の助けを借りてでも禁煙することが、きっと脳卒中予防の役に立ちます。近くのお医者さんで禁煙外来をしているところを探してみましょう。

生活習慣改善で効果が出ない場合は
お薬を始める相談を

これらを頑張ってもなお血圧が高く、医師から勧められる場合は、お薬を始めたほうが良いと思います。高血圧等のお薬を一旦飲み始めると、そのまま一生やめられなくなるので飲みたくない、とおっしゃる方がおられますが、誤解されていることがほとんどです。医師から高血圧にお薬を勧められるような方は、お薬を飲まなければ「お薬が必要な状態がずっと続く」のです。仮に高血圧の薬をご自身の判断でやめても禁断症状のようなものは出ませんが、せっかく下がっていた血圧が再び上昇しますので、脳卒中が起こる危険性は上がってしまうでしょう。但し、お薬が始まった後も、減塩や減量の効果が少しずつ出てきて血圧が下がってくれば、場合によってはお薬を減らしたり、一旦やめてみたりすることはあるかもしれません。どのお薬にもわずかですが副作用がありますので飲まないに越したことはありませんが、副作用が心配な方も、何故お薬を飲む事が必要なのか、ということをよく考える事が大事です。 もちろん、高血圧だけではなく、糖尿病やコレステロールの異常もきちんと治療を受ける事が大事です。基本的には今お話した高血圧と同じようにお考えいただければと思います。

心房細動という不整脈がある方は脳梗塞予防について
医師への相談をお勧めします

心房細動という不整脈は、冒頭にお話しましたが、心臓の中に血栓ができる原因となり、この心臓の血栓は脳へ流れていくと非常に重い脳梗塞を起こしてしまいます。動悸等の症状が出る場合もありますが、お年を取っている方だと、まったく症状がでない場合もあります。ご自身の脈をとってみて、脈の間隔がまったくそろっていない場合は、知らないうちに心房細動になっているかもしれません。かかりつけの先生に相談してみましょう。

執筆者

脳卒中・心臓病等
総合支援センター

副センター長 板橋 亮

岩手医科大学
医学部
内科学講座
脳神経内科・老年科分野 教授

【専門分野】

急性期脳卒中の診療、脳神経
超音波学、脳卒中の神経心理学

脳卒中・心臓病総合支援センター

岩手医科大学附属病院